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クライナの次に「餌食」になるのは台湾と日本か?―米政府HPから「台湾独立を支持しない」が消えた!

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
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バイデン大統領(写真:ロイター/アフロ)

 プーチンを怒らせるには「ウクライナのNATO加盟」を煽ることだったが、北京を怒らせるには「台湾独立」を煽ることだ。台湾が政府として独立を叫べば北京は必ず武力攻撃をしてくる。独立を叫んでくれないと中国が武力攻撃してこない。戦争が永久に地球上で起きていないとアメリカの戦争ビジネスは儲からない。

バイデンはウクライナと同じ構図を、今度は台湾と日本で築こうとしている。

 次にバイデンの餌食になるのは台湾と日本だ!

◆これまでの台湾関係の米政府文書

2022年5月3日付のアメリカ政府のウェブサイトには、台湾との関係のページで、以下の文言があった。( )内の日本語は筆者。

  Government of the People’s Republic of China as the sole legal government of China, acknowledging the Chinese position that there is butone China(一つの中国)andTaiwan is part of China(台湾は中国の一部). The Joint Communique also stated that the people of the United States will maintain cultural, commercial, and other unofficial relations with the people of Taiwan. The American Institute in Taiwan (AIT) is responsible for implementing U.S. policy toward Taiwan.

The United States does not support Taiwan independence(アメリカは台湾の独立を支持しない). Maintaining strong, unofficial relations with Taiwan is a major U.S. goal, in line with the U.S. desire to further peace and stability in Asia.(引用ここまで)

 バイデン大統領が習近平国家主席と電話会談するときも、ブリンケン国務長官が楊潔篪・中央外事工作委员会弁公室主任や王毅外相と会談するときも、必ずと言っていいほど「アメリカは台湾の独立を支持しない」という言葉を、決まり文句のように言っていた。だから、対中包囲網とかいろいろな連盟を結成しても、中国は決して本気で怒ることはなかった。

 台湾政府もまた、政府として「独立」を宣言すると、必ず中国の全人代で2005年に制定された「反国家分裂法」が火を噴くのを知っているので、民進党の蔡英文総統といえども、やはり「独立」を宣言することだけは避けている。

 だというのに、バイデンは今般、ウクライナでプーチンを軍事侵攻に持っていくことに成功したため、同じ手法を用いて、遂にその刃を台湾に、そして結局は日本に向け始めたのである。

◆5月5日の更新で消えた「台湾は中国の一部分」と「アメリカは台湾独立を支持しない」

今年5月5日に更新されたアメリカ政府のウェブサイトにおける台湾関係のページをご覧いただきたい。このページには、以下の二つの文言がない。

     ●Taiwan is part of China

     ●The United States does not support Taiwan independence

 すなわち「台湾は中国の一部」という言葉と「アメリカは台湾の独立を支持しない」という言葉が削除されてしまっているのだ。それでいて

     ●one China

という言葉だけは残っている。これは何を意味しているかといえば、中国は「中華人民共和国」なのか、それとも「中華民国」なのかという違いはあるが、少なくとも「一つの中国」で、アメリカは場合によっては「中国=中華民国」として、「一つの中国」を認める可能性があることを示唆している。

 これが実際行動として起きたら、中国は必ず台湾を武力攻撃するだろう。

 それは「ウクライナはNATOに加盟すべき」と言ってプーチンを激怒させたのと同じことを、習近平に対しても仕向ける可能性を秘めている。

 習近平は本来、台湾を武力攻撃するつもりはない。なぜなら、ウクライナと違い、統一した後に統治しなければならないので、武力攻撃を受けて反中感情が高まっているような台湾国民を抱え込んだら、一党支配体制が崩壊するからだ。したがって経済でがんじがらめにして、搦(から)め取っていこうというのが、習近平の基本戦略だ。

 しかし、バイデンは、それでは困る。

 戦争をしてくれないと、アメリカの戦争ビジネスが儲からない。

 戦争ビジネスで儲けていかないと、やがて中国の経済規模がアメリカを抜くことになるので、それを阻止するためにもバイデンには「戦争」が必要なのである。

◆中国は激しく反応

5月10日の18:24に公開された中国外交部のウェブサイトによれば、定例記者会見で、ロイター社の記者が趙立堅報道官に以下のように聞いている。

 ――アメリカ国務省のウェブサイトが最近「米台関係に関する事実のリスト」を更新し、「台湾は中国の一部である」や「米国は「台湾の独立」を支持していない」などの表現を削除したと、多くの報道が注目している。これに関して外交部はどのように考えているか?

 すると、趙立堅が眉間にしわを寄せて、概ね以下のように回答した(概略)。

――世界に中国は1つしかなく、台湾は中国の領土の不可分の一部であり、中華人民共和国政府は全中国を代表する唯一の合法的な政府だ。 これは国際社会が普遍的に認める共通認識で、国際関係の原則だ。歴史を改ざんすることは許されない。アメリカは、3つの米中共同コミュニケにおいて、台湾問題と「一つの中国」原則について、厳粛な約束をした。今になってアメリカが米台関係を改定することは、危険な火遊びをするようなもので、必ず大やけどをすることになる。

 バイデン大統領は何度も「アメリカは台湾の独立を支持しない」と誓ったではないか。それを言葉通りに実行せよ。台湾問題を口実に政治的小細工を弄して、「台湾を以て中国をコントロールする」ような愚かな行為はやめることだ。(引用ここまで)

 5月11日06:47には、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」が外交部のコメントを引用して激しい批判を展開している。そこでは

 ●2018年8月31日にアメリカ国務省の東アジア局が更新したウェブサイトには、「米国は、中華人民共和国政府が中国唯一の合法的な政府であることを認め台湾は中国の一部であり、米国は台湾の独立を支持しておらず、台湾との強い非公式な関係を維持することは米国の主要な目標であり、アジアにおける平和と安定の追求に対する米国の期待に合致している」と書いてあるが、それは今アーカイブ入りしてしまった。

 ●5月5日に更新されたヴァージョンでは、厳粛な中台間の約束事が削除され、「台湾は民主主義のリーダーであり、科学技術の要人であり、インド・太平洋地域における米国の重要なパートナーである」と書いてある。

 ●「台湾カード」を用いて、卑劣な小細工を弄することは絶対に許されない。

という趣旨のことが書いてある。

 さらに5月11日15:41、中共中央台湾工作弁公室と国務院台湾工作弁公室は同時に記者会見を開いて以下のようにアメリカを批判した。

 ――「台湾が中国の一部である」という事実を変えることはできない。 米政府に対し、「一つの中国」原則を空洞化させることをやめ、「一つの中国」原則と三つの米中コミュニケを遵守するよう要求する。

◆台湾のネット番組は

台湾のネット番組【頭條開講】が【台湾海峡は煉獄になったのか? ホワイトハウスはどうしても北京を怒らせたい(北京を怒らせるためには手段を択ばない)! 文字によるゲームは中国のレッドラインに挑戦しようとしている! 「台湾の独立を支持するか否か」がカードになってしまった! アメリカはかつての承諾を覆そうとしている!】といった、やたら長いタイトルの番組を報道した。

 コメントしているのは、元ニュージーランドの「中華民国」代表(大使級)の介文汲氏で、彼はアメリカの今般の台湾に関する変化を「戦争に誘うため」と解釈している。

 【頭條開講】は台湾の「中天新聞」傘下のニュースチャンネルで、国民党側のメディアだ。そのため中天新聞は民進党の蔡英文政権からテレビ局としての運営許可を2020年11月に取り上げられ、今のところはYouTubeチャンネルを運営している。その上でご紹介すると、介氏は概ね以下のように言っている

 ●これはほんの始まりに過ぎない。フルコースの料理で言うなら、前菜が出たといったところか。

 ●今は当該文章を削除しただけだが、そのうち明確に「台湾は中国の一部ではない」と書いてくるかもしれないし、「アメリカは台湾の独立を支持する」と明言するようになるかもしれない。

 ●そこまで行ったら、当然、戦争が始まる。

 ●そもそも、考えてみるといい。アメリカがちょっとした策を講じただけで、ロシアは見事に引っ掛かって手を出してしまったじゃないか。今度は似たような手で「台湾」を道具に使って中国に戦争を誘発させようとしている。GDP1.7兆ドルのロシアと比べたら、何と言っても中国はGDP17兆ドル!アメリカにしてみれば、この中国こそが本当の敵なんだ。

 ●アメリカにとっては、台湾海峡での緊張が高まれば高まるほど有利で、その分だけアメリカの懐にお金が転がりこむという寸法だ。

 ●アメリカは大臣クラスの人が台湾を訪問したり台湾に武器を売りつけたりして、できるだけ北京を怒らせ、台湾海峡の緊張を高めて、戦争に持っていこうと準備している。

 ●だから、台湾人自身が、自分たちの未来を、どのようにして決定し、どういう道を選ぶのかを考えなければならない。

◆ウクライナの次に「バイデンの餌食」になるのは日本か

 ウクライナ戦争をきっかけに、日本は軍備増強への意向が強くなっている。その方向に日本人の意識を醸成した上で、アメリカは「日本をNATOに加盟させる」雰囲気をちらつかせて、「餌」にしている。

 こうしておいて「台湾独立」という北京が激怒する「台湾カード」を用いて、武力を使って台湾統一をすることを避けようとしてきた北京を何とか怒らせ、武力を使わざるを得ない方向に持っていこうとしているのだ。

 これはミアシャイマーが「棒で熊(プーチン)の目を突いた」ことに相当する。   

 ウクライナの場合は「NATO加盟」を煽ればプーチンは動くと、バイデンは2009年から周到に計画して行動してきたことは、これまで何度も書いてきた通りだ(拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』だけでなく、たとえば5月1日のコラム<2014年、ウクライナにアメリカの傀儡政権を樹立させたバイデンと「クッキーを配るヌーランド」>や5月6日のコラム<遂につかんだ「バイデンの動かぬ証拠」――2014年ウクライナ親露政権打倒の首謀者>など)。

 結果、獰猛なプーチンは愚かにもその手に乗って軍事行動に出てしまった。

 北京の場合は「台湾独立」が中華人民共和国誕生以来の「最大の怒り」となることをバイデンは知っている。習近平が「反国家分裂法」を発動して台湾を武力攻撃するしかないところに追い込まれるかもしれない。

 その場合、アメリカ人は戦わないで、「台湾有事は日本有事」という概念を日本人に刷り込み、「アメリカは遥か離れた所にあるが、日本は台湾のすぐ隣なのだから、さらに尖閣問題だってあるから、これは日本の問題だ」として、「戦うべきは日本人」と主張し、日本国民を戦場に駆り立てる可能性がある。尖閣に関しては日米同盟が対象としていると言っているが、中国は尖閣を狙って武力攻撃をするわけではないのでアメリカは回避する理由を見つけられるし、また日米安保条約も、米議会の承諾がなければ米軍を動かせないので、そこで否決すれば済むことだ。

 戦費も日本が出しなさいと、金を日本からむしり取ることもするだろう。

 アメリカにとって、日本人の命が犠牲になることは「痛くない」のだ。アメリカの言う通りに動くことに、日本は慣らされてきたので文句は言うまいと高を括っているだろう。1945年8月15日以来、その方向に日本を手なづけてきたのだから。

 筆者がなぜ執拗にバイデンの動きを追いかけてきたかというと、実はこれがバイデンの行きつくところであろうことを最初から予感していたからだ。

 従って、「遂に来たか」という思いしかない。

 1945年からアメリカに飼いならされてきた(少なからぬ)日本人には到底信じられない「妄想」のように見えるかもしれないが、これが現実だ。嘘と思うならアメリカ政府のウェブサイトをしっかりご覧になるといい。

 ウクライナで起きたことは。必ず日本でも起きる。

 それをどのようにすれば防ぐことができるのかを考えることこそ、日本人の責務なのではないだろうか。

 追記:台湾関係の文言削除は、ただ単に対中包囲網を強化しているだけではないのかという疑問が湧くかもしれないが、もしそうなら、米通商代表部(USTR)が対中制裁を一部解除し始めたことと矛盾する。対中包囲網の強化だけが目的なら、何も最も戦争を誘発する手段を使う必要はなく、他にいくらでも方法があるはずだ。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(4月16日出版、PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

遠藤誉の書籍紹介

ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか
著者:遠藤誉

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    遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
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    今年2月4日に対面で会談した習近平国家主席とプーチン大統領(写真:ロイター/アフロ)

     駐ウクライナの元中国大使の「ロシアは必ず惨敗する」という言葉がネットに拡散したことから、習近平はプーチンを捨てるだろうといった観測が見られる。そこで真相を究めたく、高齢の元中国政府高官を直撃取材した。

    ◆オンライン・フォーラムで「ロシアは必ず惨敗する」

     中国国際金融30人フォーラム(CIF 30)と中国社会科学院国際研究学部がオンライン形式で「ロシア・ウクライナ危機は世界の金融情勢にどのような大きな変化をもたらしたか?それは中国にどのような影響を与えるか?中国はどのように対応すべきか?」をテーマとして、内部フォーラムを開催した。その中の元駐ウクライナ中国大使(2005年~2007年)だった高玉生氏の発言が5月10日にCIF30のウェブサイトに公開されたのだが、彼のスピーチの部分だけが、すぐに削除されてしまった。

     なぜなら、高玉生はそのフォーラムでが「ロシアは必ず惨敗する」という趣旨のスピーチを行ったからだ。しかし、削除された内容が香港系列の鳳凰網や、他の中国内の複数のウェブサイトに転載されたために、海外を含めた多くの人の知るところとなった。

     スピーチの内容は相当に長いので、それをすべて書くわけにはいかないが、概ね以下のようなことを言っている。

     1.そもそもソ連崩壊後のロシアは、常に衰退の一途をたどっている。プーチンのリーダーシップの下でロシアが復活したようなことを言っているが、それは全くの虚偽で、ロシアは崩壊前のソ連の衰退を継続しているだけだ。

     2.ロシアの電撃戦の失敗は、既にロシアが敗退したことを意味し、軍事大国などと言いながら、実は1日数億ドルの戦費を負担する財政力などロシアにはない。

     3.それでもロシアは会戦当初軍事力と経済力においてウクライナに勝っていたが、ウクライナの抵抗とウクライナに対する西側諸国の巨大で継続的かつ効果的な支援により、ロシアの有利さは相殺された。ウクライナは欧米の連続的に支援により、兵器技術と装備、軍事概念とハイブリッドな戦闘態勢において、ロシアを圧倒している。

     4.ロシアが最終的に敗北するのは時間の問題だ。

     5.もともとウクライナの世論は親露派と親欧米派に分かれていたが、2014年のロシアによるクリミア併合以降は、親欧米感情が高まった。

     6.ウクライナは主権と領土保全の問題でロシアに譲歩するつもりはなく、戦争によりウクライナ東部とクリミアを回復することを決意している。というのも、米国、NATO、欧州連合が、プーチンを打ち負かす決意を繰り返し表明しているからだ。米国は「弱体化し孤立したロシア」を目指す決意を固めている。

     7.この目標を達成するために、米国は第二次世界大戦後初めてウクライナのレンドリース法を可決した。さらに重要なのは、米国、英国、その他の国々の戦争への直接参加が深まり、その範囲が拡大していることだ。これはロシアが完全敗北して罰せられるまで戦争を続けるという決意の表れだ。

     8.ロシアは弱体化し、重要な国際機関から追放される可能性があり、国際的な地位は大幅に低下する。ウクライナはヨーロッパの家族の一員となり、他の旧ソビエト諸国も非ロシア化をする可能性が高い。

     9.日本とドイツは、第二次世界大戦の敗戦国であるにもかかわらず、ロシア・ウクライナ紛争を通して軍備開発を加速させ、政治的権力の地位を目指してより積極的に努力し、あたかも戦勝国として衣を換えて西側陣営に入っていく。

     10.(ウクライナ戦争後)米国やその他の西側諸国は、国連やその他の重要な国際機関の実質的な改革を積極的に推進する。改革が阻止されれば、新たな組織を設立していく可能性がある。(第二次世界大戦の戦勝国と敗戦国の線引きではなく)いわゆる「民主的で自由なイデオロギー」の国であるか否かという線引きで「ロシアなどの一部の国」を除外する可能性がある。(概要は以上)

     高玉生のスピーチの中で、最も問題となるのは、最後に太文字で示した文言だ。特に「ロシアなどの一部の国」の「など」が、「中国」を指していることは明らかだろう。

     CIF30は何を考えているのか。こんな内容を公開して、削除されない方がおかしいだろう。

    ◆日本のメディアは「習近平がプーチンを見限ったか?」と大はしゃぎ

     この肝心の「ロシアなど」の「など」があることには目を向けないで、日本のメディアは「中国、党内分裂か」とか「習近平がプーチンを見限ったか?」などと大はしゃぎしている。というのも、情報源としてアメリカの元外交官のデービッド・カウヒグが中国のニュースを英訳してブログで書いた内容を二次情報として用いて、5月12日にNEWSWEEKが<「大国ロシアは過去になる」中国元大使が異例の発言>を発表したので、これは「三次情報」になる。こ三次情報では、どこまでが高玉生の発言で、どこまでがデービッド・カウヒグ自身の思惑なのか、さらには、どこがNEWSWEEKの執筆者であるジョン・フェン氏の見解なのかが区別しにくい形で書いてあるため、全体として、あたかも全てが高玉生のスピーチであるかのような印象を与える。

     当然のことながら、日本のメディアは「四次情報」として日本人好みに書いてあるので、「大はしゃぎ」したくなるだろう。幾重にもフィルターが掛かり、結果、「ロシアの苦戦を見て、習近平が遂にプーチンを見捨てた」、「中国、遂に党内分裂か」となってしまったわけだ。

     そうでなくとも筆者としては5月10日のコラム<米CIA長官「習近平はウクライナ戦争で動揺」発言は正しいのか?>で、アメリカが「習近平が動揺している」と言いたくてたまらないため、この方向の世論誘導が成されていると警告したばかりだ。習近平の【軍冷経熱】という対ロシア戦略を直視しないと、日本が外交方針を誤り、日本に不利益をもたらすことを懸念したからである。

    ◆元中国政府高官を直撃取材_ロシア軍苦戦で習近平の対ロシア戦略は変わったか?

     そこで、もう相当に高齢の、元中国政府高官を直撃取材する決心をした。

     メールは全て検閲されているだろうことは分かっているし、北京のこの古い友人は、私に「しばらくは中国に来ない方が身のためだろう」と忠告してくれた人であり、「いつもデリケートな問題(政治問題)を聞いてくるので、そろそろメールを出すのをやめてくれ」と、言いにくいことを言ってしまった人物でもある。

     それでもと、スマホから連絡したところ、受けてくれた。

     ともかく「ロシア軍苦戦で習近平の対ロシア戦略は変わったか?」、それだけ答えてくれればいいので、教えてくれと、切羽詰まって頼んだ。

     すると、久々の音信に喜び、まるで堰を切ったように、一気に思いを吐き出してくれた。Q&Aの形ではあったが、もう分類するのもまどろこしく、長くもなるので、彼の回答を順不同で羅列する。

     一、習近平の対ロシア戦略は微塵も変わらない。そもそも、友人が窮地に陥っているときに見捨てるようなことをしたら、それは必ず本人に跳ね返ってくる。これは人類の原理だ。中露はともに、アメリカによって制裁を受けている国だ。ロシアを支えてこそ、中国の力が温存されるのであり、もしロシアを見捨てたら、それは中国の弱体化にもつながる。中国は絶対に、そのような愚かなことはしない。

     二、中国は発展途上国を率いている大国だ。彼らは国連における対露非難決議に関しても、アメリカからの制裁に関しても、中国と同じ立場に立って否定してくれた。だというのに、ロシアが苦戦しているからと言って中国が動揺したら、中国を信じてついてきてくれている発展途上国はどうなるのか。そのような無責任なことをしたら、中国は終わる。したがって習近平の対ロシア戦略は、絶対に揺るがない。

     三、ただし、習近平は最初から、ロシアの軍事行動に関して賛同の意を表していない。「反対だ」というストレートな言葉は使ってないが、「賛成ではない」という意思表明は最初からしている。たとえば2月25日、ロシアが軍事侵攻をした翌日に習近平はプーチンと電話会談をしたが、そのときに習近平はプーチンに「話し合いによる解決を」とストレートに言っている。だからこそ2月28日からウクライナとロシアの間の停戦交渉が始まったじゃないか。

     四、ゼレンスキーも途中で「NATO加盟を諦める」と表明したので、停戦交渉がまとまり始めたら、突然、アメリカがウクライナに対する激しい軍事支援を始めて、停戦を阻止する方向に動き始めた。アメリカは停戦して欲しくないのだ。ロシアを叩き潰すまで戦いを続けたい。

     五、トランプはNATOなど要らないと主張して、NATOを脱退しようとさえした。しかしバイデンは逆だ。NATOを使って世界制覇を続けていたい。バイデンはNATOを使って世界各地で戦争を吹っ掛けていたいのだ。

     六、実は中国とウクライナは友好的で、多くの中国人はウクライナが好きで、紛争が始まった最初のころは、ウクライナを応援する人とロシアを応援する人が五分五分だった時期さえある。ところがアメリカが軍事支援を強化し始めてから、中国の民心は突然変わってきた。ウクライナの味方をしているのがアメリカなら、ウクライナもアメリカを同じように中国にとっては「敵」になる。

     七、アメリカは自分よりも上に出る国を潰したいという基本的な方針がある、日本だって、かつて半導体は世界一で、アメリカの上を行っていた時期があった。中国人はみんな日本に憧れたものだ。ところがアメリカは、同盟国の日本を、半導体が強いからという理由で叩きのめしたじゃないか。忘れたのか。忘れてないだろう?いま日本の半導体がダメになったのはアメリカのせいで、韓国や台湾が強くなっていった。

     八、それと同じことで、アメリカはロシアと中国を潰したいのだ。ロシアの軍事力と中国の経済力を叩きのめしたい。ロシアの次は中国であることを、中国は知っている。しかし忘れないでほしい。中国はロシアではない。ソ連はアメリカの手に乗って滅んだが、中国は滅びなかった。今回も同じだ。中国はそんなに愚かではない。アメリカの手には乗らない。

     九、高玉生が何を言ったか、誰も気にしてない。いろんな意見があるのは良いことで、彼の言論もCIF30の公式ウェブサイトから削除されただけで、中国の他のウェブサイトにはいくらでも転載されている。14億人の内の一人が、「ロシアは惨敗する」と言ったからって、それが何だというのか。彼は中央には如何なる力も持っていない退官した高齢の公務員に過ぎない。元ウクライナ大使だからと言って海外が特別視するのは適切でない(筆者注:そう言えば日本にも、高玉生とピッタリ同じく2005年からウクライナ大使になっておられた方もいるようで、たしかに元ウクライナ大使だったからということで特別視するのは適切でないかもしれない)。ただ、高玉生は最後に「ロシアなどいくつかの国が」と、「など」を付けたのは不見識だろう。

     十、最後に言っておくが、私自身、ロシアの軍事侵攻には反対だ。賛成していない。バイデンやNATOのやり方は悪辣だが、しかし、それでも、ロシアには他の選択があったはずだ。だからと言って、私はロシアを支援しないわけではない。ロシアが潰されないように支援する。それは中央の姿勢に一致していると私は思っている。

     以上だ。

     なお、高玉生の5番目の発言に関して特別に聞いたが、「あの時期、盛んにアメリカが親欧米派を増やそうと煽っていたことに気が付かない程度の人間だということだ。そういう人はいくらでもいる。気にするな」と切り捨てた。

     長くなりすぎたので、ここまでにしておこう。

    中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

    1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(4月16日出版、PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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